消費者心理学
いずれも素晴らしい個性と明るい笑顔の持ち主で、見込み客との関係も良好な4人のビジネスパーソンがいたとする。
4人とも仕事熱心で努力家だ。しかしなぜ、その4名の業績が異なることがあるのか。
それは、消費者心理学という特別なトリックを利用しているか否かにある。
本書はあらゆる商品に対して有効な、間違いなく役立つ消費者心理学の強力な21のテクニックを紹介する。
消費者の考え方に影響を与えることが科学的に証明されているのだ。
使わない手はない。
生まれながらの欲求と後天的欲求
まずは人間が生まれながらにしてもつ欲求に着目する。
- 生き残り、人生を楽しみ、長生きしたい
- 食べ物、飲み物を味わいたい
- 恐怖、痛み、危険を免れたい
- 性的に交わりたい
- 快適に暮らしたい
- 他人に優り、世の中に後れを取りたくない
- 愛する人を気遣い、守りたい
- 社会的に認められたい
これら欲求は、全ての人に生まれながらにしてDNAレベルで刻み込まれた基本的欲求である。
したがってセールストークをする際には、これらの欲求を満たすような言葉を投げかけるべきだ。
それにも関わらず、話のほとんどを製品それ自体の説明に費やすビジネスパーソンがあまりにも多い。
先ほどの欲求の他にも、後天的に身につける欲求も知られている。
- 情報が欲しい
- 好奇心を満たしたい
- 身体や周りの環境を清潔にしたい
- 効率よくありたい
- 便利であってほしい
- 信頼性、質のよさが欲しい
- 美しさと流行を表現したい
- 節約し、利益を上げたい
- 掘り出し物を見つけたい
これらは生まれながらの欲求に比べるときわめて弱いが、大多数の人々に影響力をもつ。
1. 先手必勝
社会心理学者のエール大学教授、ウィリアム・J・マクガイアによって考え出された消費者心理学の「予防接種」理論というものがある。
これは、インフルエンザの予防接種のように、自分の身体にワクチンという形で少量のウイルスを摂取することで耐性をつける方法と似ている。
つまり、自分の扱う製品にとって少し不利な話をすることで、顧客により自分の扱う製品を支持してもらうようにする方法だ。
ライバルがあなたから顧客を奪う前に、あなたが扱っている製品に弱い攻撃を前もって加え、その上でその攻撃を否定するのだ。
重要なことは、ライバルが行うあなたの製品への攻撃よりも先にあなた自身で行っておくことだ。
そうすれば、顧客はあなたを信頼し、ライバルに対して防御的になる。
2. 見込み客の脳にイメージを埋め込む
私たちの経験を構成する要素は5つある。
- V(visual:視覚)
- A(auditory:聴覚)
- K(kinesthetic:触覚)
- O(olfactory:嗅覚)
- G(gustatory:味覚)
あなたが何年も前にしたこと(例えばジェットコースターに乗ったこと)を思い出す時には、上の5つの要素がミックスされて記憶が呼び戻されるのだ。
重要なことは、あなたが顧客の脳に組み込む「内面における再現要素」とセールストークの効果は直接関係しているということだ。【本書P49より抜粋】
ここで注意が必要なのは、伝えることと売ることは異なるということだ。
必要なことは、VAKOGを喚起する言葉を注意深く選んだ上で、行動を起こさせるような詳細な内容を提示することだ。
3. 信頼性の転移
あなたが製品を売りたいという気持ちが強いほど、相手はこう考えるだろう。
食いものにされてたまるか、
優位に立たれてはいけない
すべての見込み客の頭の中には、あなたがおこなうセールストークに対する反駁装置が組み込まれていると考えた方が良い。
反駁(はんばく):他人の主張や批判に対して論じ返す
こんなときには、あなたの信頼性を裏付けてくれる新たな根拠―つまり相手が信頼するような新たな情報源を利用するのだ。
この転移戦略で重要なことは、データに専門用語と重要組織の両者がもつ心理学的に強い説得力をふきこむことだ。
トラストフォーマットとは・・・あなたの顧客が信頼を寄せている、雑誌やメディアの「印象」「デザイン」「信頼性」を借りて、売上げを伸ばすデザイン心理技術のことです。
4. TTMを理解する
新たな見込み客に会う時には、相手があなたの商品やカテゴリーをどれだけ知っているかを把握し、話を合わせることが大切だ。
行動変容ステージモデル(TTM:transtheoretical model)では、消費者の知識とその結果生まれる行動を5段階にわける。
- 検討以前
- 検討
- 準備
- 行動
- 継続
この段階に沿って消費者を1段階ずつ動かし、最終的にその商品を使うことが習慣になるように仕向けることだ。【本書P73より抜粋】
6. 恐怖を利用する
人間の行動のほとんどは恐怖から生まれているといっても過言ではない。
恐怖から生まれるパワーの核心は、はじめに紹介した生まれながらの欲求の1番、「生き残りたい」からきている。
したがって、恐怖を適切に利用するためには生まれながらの欲求をうまく利用する必要がある。
つまり、あなたが売りたい製品を買わないことによって被ることになる恐怖を煽り、製品を使用することによってその恐怖を簡単に避けることができることを示すことだ。
8. 消費者に訴えかける2つの経路
周辺経路思考と中心経路思考と呼ばれる経路によって、消費者にあなたの製品やサービスを買う気にさせることができる。
周辺経路思考とは、人々に表面的なイメージ(キュー:手がかり、ともいう)に注目させるのだ。
中心経路思考は、事実、データ、数字に注目する見込み客の姿勢にピントを合わせる。
一般的には中心経路思考の方が人々の気持ちの奥底にまで染み込みやすいが、あなたが売ろうとしている製品やサービスによって使い分けが必要である。
例えば化粧品を売ろうというとき、コマーシャルで白衣を着た科学者が化粧品の分子量等の数値を示すよりは、綺麗な女性が使用している姿を見せた方が効果的だろう。
重要なのは、どのタイプの売り方が求められるのかを決めることだ。
11. 好意
あなたに好意を感じます!はい、お金をどうぞ♪
こういったことはあり得ないが、少なくとも見込客があなたに好感を持った場合には、買ってもらえる度合いがはるかに高くなることが研究で示されている。
重要な研究結果として、直に向き合ってのコミュニケーションにおいて、意味を伝える割合は言葉がわずか7%、声のトーンが38%、体の姿勢や身のこなしが55%も占めるという事実がある。
この事実をうまく利用すれば、つまり体の姿勢や身のこなしなど、実際の言葉以外をうまく使うことで、相手に好かれる可能性が高くなるのだ。
有効な方法にマッチングとミラーリングがある。
つまり、見込み客がとるボディランゲージを真似したり、鏡に映っているかのようにふるまうことで自然と相手に好感を持たせることができるのだ。
13. 返報性
時に、人に何かをあげるということがその人に物を買ってもらう1番いい方法だということがある。
なぜなら、脳の思考回路は人から親切を受けたらそれに報いるように後天的に学習するからだ。
贈り物をすることにより見込み客の注意を引くことができ、あなたのセールストークに対して好意的に耳を傾けるようになる。
最終的にはあなたに何らかの形での埋め合わせか対価をあなたに返すだろう。
これが返報性の原理であり、与えることのによって見込み客の心に入り込むテクニックである。
15. 希少性
人は、自分が持てないものを欲しがり、稀なもの、数が限られているものを所有したいと強く望む。【P191より抜粋】
売っているものが何であろうと、見込客にあなたの製品やサービスが、今も、そしてこれからも、簡単かつ際限なく手に入ると言う印象を与えてはならない。
あなたがコンサルタントであるなら、あなたのカレンダーが空白でいっぱいであることを伝えてはならない。
常にPSBB(P:Popular, S:Successful, B:Busy, B:Booked)であることを伝えるのだ。
16. データよりも例を示す
セールスをもたらす大きな要素は、データではなく感情である。
そして感情を動かす手段としては、データよりも例を示す方が有効なのである。
個人がものを買うとき、脳の「それが欲しい」メカニズムに点火する燃料は、“メリットが保証されている”ということだ。【P200より抜粋】
したがって、感情がつめこまれた例を多く示し、多くのメリットを提示することで、見込客の心をつかむことができる。
17. メッセージの整理
消費者がある商品を知って、購入に至るまでのステップがあり、頭文字をとって「AIDPA」と呼ばれる。
- Attention:注意
- Interest:関心
- Desire:欲求
- Memory:記憶
- Action:行動
基本的な5つの段階を踏むことで、消費者を確実に購入へと導くことができるのだ。
あなたに必要なことは、情報を整理し、メッセージを整理して伝えることだ。
19. 繰り返しと重複
人は、あなたが思っている以上にあなたの話を聞いていない。
だからこそ、「繰り返し」と「重複」が重要になってくる。繰り返しと重複の違いは、繰り返しが何かをもう一度言うことに対して、重複は、別の言葉で同じ意味のことを繰り返すことだ。
セールスにおいてはどちらも重要であり、見込み客に対して製品やサービスが記憶に残りやすくなるのだ。
20. 欠点も表に出す
伝説の広告人、ジョン・ケイプルズはこう助言する。
ダークサイドも告げるべし
基本的に見込み客は、あなたがいいことしか言わないと思っている。
では、製品のあまり良くない点、ライバルよりも劣る点を1つか2つ明かすとしたらどうだろう。
見込み客にとって、あなたの言葉がより信用できる言葉として映るようになる。
注意すべき点は、この戦略はコントロールが必要だと言うことだ。
最も効果的な戦略は、あなたの製品がライバルのものにちょっと劣る、ごく小さな点を伝えることだ。
こうすることでセールストークの本体はあまり傷つくことなく相手から信用を勝ち取れる。
あなたの商品をいかに顧客に売るか
本書を読めば、消費者心理学の有効性を実感できることは間違いないでしょう。数多くの事例を交えつつ、科学的事実としてのテクニックが述べられています。
消費者心理学が活かせるフィールドはセールスに限ったことではありません。
人に行動を起こさせる必要があるありとあらゆる場面において、本書『クロージングの心理技術21』で紹介されるテクニックは活かすことができるはずです。
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